(クレリド)



「本気で人を愛せない人は、本当の幸せには巡り会えないんだよ」



果たして、これを言ったのは誰だったか。リッドは大好きな空を見上げながら少し考える。深い緑色の髪をしたお転婆すぎる女性だった気もするし、青色の長い髪を束ねた弱虫な男性だった気もする。遠い昔に言われた言葉を反芻しても答えなんて出てきやしない。好きなものなんて、いっぱいあるんだから良いじゃないか。リッドの結論はこれだった。今自分は十分すぎるほど幸せだ。大好きな空を見上げることができる。大好きな食糧を自分の好きなだけ食べることだってできる。かつて旅をした仲間たちにいくらでも会うことすらできる。自分には多すぎるぐらいの贅沢だった。自分の好きなときに好きなことができる………………リッドは自由が好きだった。誰にも縛られない、誰に命令されるでもない、自分一人だけの時間が好きだった。リッドにとっての幸せというものはそういうものだった。



(………それなのに、どうしてこんなに痛い?)



幸せだ。自分はこんなにも確かに幸せだ。なのにすごく胸が痛い。こんなにも満たされているのに、何かが足りない。何が?分からない。




「………リッド?どうしたの」
「クレス」




クレス。俺、おかしいんだぜ。十分すぎるぐらいに幸せなはずなのに、何かが足りねえんだよ。その何かがなんなのか分かんねえけど、何かが足りねえんだ。それに、胸がすごく痛くなるんだ。心臓の辺りがすごく痛くて、体が言うこときかなくなるんだ。ほら、今もそうだ。クレスといるといつも心臓が締め付けられるように痛い。原因がわかんねえんだよ。これは一体なんなんだ。皆は、分かるのものなのか。お前は、クレスには分かるのか。俺だけが分からないのか。




「………リッド、それはね」




クレスは金色の糸のような髪を靡かせて、口角を僅かに吊り上げた。
あ、悪いこと考えてる時の顔だ。
それに気づいた時にはもう遅い。





………あ、キス、された





「リッドは、本当の幸せに巡り会えたんだよ」




おめでとうと笑うクレスは嬉しそうにもう一度俺の唇を奪って、そのまま俺を抱き締めた。端から見たら身長が合わず不恰好なそれに、俺は赤くなった頬を隠すようにクレスの胸に埋めた。痛いはずの心臓は、どくんどくんと大きく波打って煩い。昔にあの言葉を放ったのはファラでも、ましてやキールでもなかった。目の前の意地悪く微笑む彼が放ったものだったのだ。全く。年下のくせに生意気だ。





「………リッド、僕の恋人になってくれますか」
「………今さらすぎるだろ馬鹿クレス」





この生意気な年下に向かって俺は肯定の言葉は吐かず、代わりに一つキスを送った。びくりと一瞬体が揺れて、そっと顔を上げてクレスを見れば何とも驚いた表情。ざまみろ。俺はクレスに向かって相手がしたのと同じように意地悪く笑った。俺はお前に縛られてなんてやんねえからなクレス。そこんとこ、覚えとけよ。





「付き合ってやるよ。お前の気がすむまで、さ」
「………リッドには敵わないな………ほんとに」





そりゃお前、







一応年上ですんで。




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